はじめに 高血圧や糖尿病などにかかる危険性が高い状態を示す言葉として「メタボリックシンドローム」という言葉が広く使われ始めたのは2005年のこと。 「メタボ」という略称で日常的に耳にする機会が増えてきました。 しかし、「メタボ=肥満」と単純に考えている人も多いのではないでしょうか。 メタボリックシンドロームには多くの要素が関係しており、ただやせればより、という単純なものではありません。 メタボリックシンドロームをしることは、自分自身の体のことを振り返るよいきっかけとなるはずです。 一人ひとりの体の状態に応じた健康づくりに生かせるようにメタボリックシンドロームの基礎知識をまとめました。
①メタボリックシンドロームとは? 生活習慣病の「もと」です。 「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」とは、内臓脂肪が多く、血圧や血糖値、血中脂質(トリグリセライド、HDLコレステロール)に問題がある状態のことをいいます。放っておくと、糖尿病や動脈硬化になりやすく、心筋梗塞や脳卒中などの発作を起こすリスクが高まってしまいます。 生活習慣を変えれば改善します。 肥満は大きく分けて下半身を中心に太る「皮下脂肪型」と、お腹を中心に太る「内臓脂肪型」の2種類があります。このうち生活習慣病につながりやすいのは「内臓脂肪型」です。 内臓脂肪がたまってしまう最大の原因は「運動不足」と「食べすぎ」です。 体を動かして使うエネルギーよりも、食べ物から取り込むエネルギーが多い状態が続くと、余分な脂肪が内臓にたまってしまうのです。 それだけなら生活に支障はありませんが、放っておくと動脈硬化が進みやすくなってしまいます。動脈硬化は脳卒中や心筋梗塞の原因となり、最悪の場合は死に至ることもあります。 幸い、内臓脂肪は運動や食生活などの生活習慣を改善すれば、皮下脂肪よりも簡単に落とすことができます。メタリックシンドロームと診断されたら、まず生活習慣を見直すことが大切なのです。
②検査と診断 メタボリックシンドロームの検査 メタボリックシンドロームの診断では、血液検査が最も重要な検査です。 このほか、生活習慣を確認するための問診、体重や身長、腹囲(ウエストサイズ)の計測、検尿なども行います。 【基本的な検診の項目(内容)】 問診 喫煙歴や服薬状況などを確認します。 身体計測 体重と慎重、腹囲などを確認します。 血液検査 脂質、血糖、肝機能を中心に調べます。 診察 医師による診察を行います。 血圧測定 血圧を測定します。 検尿 尿糖や尿タンパクを調べます。 [体をチェックしてみよう!] まずは自分のボディサイズをチェックしてみませんか。 肥満度を知る目安になります。 ●ウエスト周囲( )cm まっすぐ立って、おへその高さで測ります。 男性85cm以上、女性90cm以上ならメタボリックシンドロームのレベル ●BMI( ) =体重( )kg ÷ 身長( )m ÷ 身長( )m ※160cm、58kgなら、58 ÷ 1.6 ÷ 1.6 =約23 BMIは、体の肥満度を知るための指標です。25以上なら要注意
メタボリックシンドロームの診断基準 メタボリックシンドロームの基準値は国によって少し違います。日本では2005年4月に「メタボリックシンドローム診断基準検討委員会」※により診断基準が決められ、以下の基準をもとに診断されます。 【メタボリックシンドロームの診断基準】 内臓脂肪蓄積 □ウエスト周囲径 ・男性85cm以上 ・女性90cm以上 ※おへその高さで測ります。 ※内臓脂肪面積100㎡以上に相当します。 + 以下の検査項目のうち2項目以上 ・高トリグリセライド血症 150mg/dl以上 ・低HDLコレステロール血症 40mg/dl未満 □血症(以下の1つ以上) ・収縮期血症 130mmHg以上 ・拡張期血症 85mmHg以上 □血糖 ・空腹時血糖値110mg/dl以上 ※日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本肥満学会、日本循環器学会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本内科学会が合間で構成した組織。 (注意)ここで示した基準は、医療機関を受診された場合の「メタボリックシンドロームの診断基準」であるため、特定健診における階層化に用いられる値とは異なります。特定健診を受けられた場合の基準はP.13に記載しているので参照してください。
③血液検査でわかること 糖質を調べる~トリグリセライド&コレステロール~ トリグリセライドやコレステロールなど、血液の中にどんな脂質がどれくらい含まれているかを調べます。 トリグリセライドやコレステロールというと悪者のイメージがありますが、どちらも人間の体には欠かせないものです。ただ、必要以上に増えすぎるなど、バランスが崩れると「脂質異常症」といって、動脈硬化のリスクが高くなってしまします。 ◎トリグリセライド(中性脂肪/TG) 体脂肪が多いほど濃度が上がる傾向があり、増えすぎると動脈硬化の原因になります。 ◎HDLコレステロール(善玉コレステロール/HDL-C) 血管にたまったコレステロールを肝臓に運ぶ働きのあるリポタンパク「HDL」に含まれるコレステロールのこと。善玉Dコレステロールともいわれ、この数値が低いと動脈硬化のリスクが高くなります。 ◎LDLコレステロール(悪玉コレステロール/LDL-C) コレステロールを体の各部に運ぶ働きのあるリポタンパク「LDL」に含まれるコレステロールのこと。悪玉コレステロールともいわれ、増えすぎると動脈硬化の原因になります。 酸素と統合した酸化LDLが動脈硬化の元凶です。
白血球の一種であるマクロファージが酸化LDLを食べると、血管内に固まって動脈硬化の原因になる。 HDLは体内のコレステロールを肝臓に戻す。(善玉)酸化したLDLは血管に付着して血管壁を気づつける。 レムナントはカイロミクロンから出るゴミ。増えると血栓のもとになる。 VLDLが中性脂肪を脂肪細胞に渡すと、LDL(悪玉)に変身。 カイロミクロンは、食事摂取して腸から吸収された脂質を体の各部に運ぶ。 LPLは、トリグリセライドを分解して吸収を助ける酵素。 VLDLは脂質を体の各部に運ぶリポタンパクの一つ
血糖を調べる~空腹時血糖&HbA1c~ 血液中のブドウ糖の濃度を調べる検査です。ただし、血糖値は食事によって大きく影響を受けるので、基本的には空腹時(食後10時間がめやす)に測定します。長期的な血糖状態をしるには、糖が結合したヘモグロビンの割合を調べる「HbA1c」が参考になります。 ◎空腹時血糖 血液中のブドウ糖濃度。一時的な血糖値を反映します。 ◎HbA1c(ヘモグロビンエーワンシ) グルコースが統合したヘモグロビン。 血糖値が高いほどHbA1cも増え、この値から過去1~2か月の平均血糖値を推測できます。 ヘモグロビンの全体量と比べた割合で表します。直前に食べた食事の影響を受けないので食後の場合はこの検査を受けます。 肝機能を調べる~AST、ALT、γ・GTP~ 幹細胞に多く含まれる酵素がどれぐらい血液中に含まれているかを調べます。脂肪肝やアルコール性肝炎などが原因で、肝機能が低下すると増加する傾向があります。 ◎AST(GOT) 肝臓や筋肉に多く含まれる酵素の一種。肝臓が壊されると血液中に増加します。 ◎ALT(GPT) ASTよりも肝臓に特異的な酵素。肝臓がこわされると血液中に増加します。肥満になると増加します。 ◎γ-GTP 長期的な飲酒習慣があると上昇しやすく、アルコール性肝障害の指標で知られていますが、メタボのような肥満でも増加します。
④血圧測定でわかること 血圧と動脈硬化 血圧は、心臓が送り出す血液量と血管を通り抜ける際の2つの要素だけで決まります。寒さや緊張が続くと血圧が高くなり、そのために血管の壁が傷ついたり、血液中の脂質が増えると、それが血管壁に溜まったりすることで血管が硬くなって弾力性を失います。これが動脈硬化です。動脈硬化が進むと血管内腔が細くなり、ずっと強い血kらを加えないと十分な血液が流れなくなって、ますます血圧が高くなり、ずっと強い力を加えないと十分な血液が流れなくなって、ますます血圧が高くなります。こうして高血圧になってゆきます。歳とともに血圧値が高くなるわけです。 緊張すると神経が興奮して血管は収縮するので、血圧は高くなってしまいます。血圧測定の時にはお腹の力を抜くようにしましょう。もし、高血圧と言われたら、自宅でリラックスして測定しなおすのもいいでしょう。 病院での測定時に緊張して高かったのなら、きっと血圧は低くなるはずです。
⑤予防と改善のために 生活習慣を見直そう メタボリックシンドロームは、生活習慣を見直すことで進行を食い止めたり、改善することが可能です。 健康的な習慣を生活に取り入れるとともに、定期的に健康診断を受け入れて体の状態を自分でチェックすることが大切です。 食生活を見直そう バランスのとれた食事が健康生活の基本です。 外食の多い人、脂っこい食事ばかりを選びがちの人は、なるべく1回の食事で、主食(ご飯類)、主菜(肉や魚のおかず)、副菜(野菜などのおかず)がそろうように意識しましょう。和食を選ぶだけでも、比較的バランスのとれた食事になりやすいのでおすすめです。高血圧ぎみの人は、料理にかける醤油を控えたり、麺類の汁を残すなどして、減塩を心がけましょう。ゆっくりとよくかんで食べれば、早く満腹感がくるので無駄な食べすぎを防げます。
生活に運動を取り入れよう やや早足でのウォーキングなど、軽めの運動を一日30分程度続けると効果的とされています。無理のない範囲で生活に運動を取り入れましょう。 ◎エレベータを使わず、階段を使う:ただし、ゆっくり昇り、降りるときは膝を曲げて膝に負担をかけないようにします。 ◎電車通勤の人は、一駅手前で降りて歩いてみる ◎いつもより遠いスーパーまで買い物に行く 【メタボリックシンドロームといわれたら】 危険因子を減らす ・・・・・タバコ ストレス 飲酒 健康習慣を取り入れる ・・・・・バランスのよい食事 適度な運動
【参考】厚生労働省の「特定健康診査・特定保健指導」について 特定健診~「病気の発見」から「予防」へ 2008年4月、内臓脂肪に着目した国の新しい健診制度「特定健康診査・特定保健指導」がスタートしました。 症状が重くなる前の予備軍の段階で病気の「タネ」を見つけて症状を改善することを目的としたものでこれまでの健診より「予防」に重点を置いた内容になっています。 対象となるのは40歳以上の健康保険加入者。検査の結果、メタボリックシンドロームに該当している人、また、その予備軍と考えられる人には医師や看護師、保健師、管理栄養士などの専門スタッフから、正解改善のための情報提供や食事・運動に関するアドバイスなどの「保健指導」を受けることができます。 特定保健指導~個別に健康づくりをアドバイス 保健指導の目的は、生活習慣病への進行を防ぐこと。ぐらい敵には、健康づくりの意識を以下の様に変えることが目的です。 (1)健診結果を理解して体の変化に気づく (2)生活を振り返り、生活習慣を改善するための行動目標を設定する (3)自分の健康を自己管理できるようになる 受診者は検査結果に応じて、以下のような指導が受けられます。 ◎情報提供 生活習慣に関する基本的な情報が提供される ◎動機付け支援 自分で生活習慣を改善できるよう指導を受ける。その結果の評価も受ける。 ◎積極的支援 生活習慣の改善をめざして、3か月以上継続して指導を受ける。計画の取り組み状況や結果についても評価を受ける。
健診 40~74歳の全被保険者が対象です。 保健指導対象者の選定、階層化 健診の結果により保健指導の内容を判定します。(情報提供/動機付け支援/積極的支援) 保健指導 判定に合わせた保健指導を実施。 評価 成果をチェック、評価します。 [基本となる項目] ◎質問表(服薬歴、喫煙歴等) ◎身体計測(身長、体重、BMI、腹囲) ◎理学的検査(身体診察) ◎血圧測定 ◎血液検査 ・脂質検査(中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール) ・血糖検査(空腹時血糖またはヘモグロビンA1c) ・肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP) ◎検尿(尿糖、尿蛋白) [必要に応じて行う検査] ◎心電図検査 ◎眼底検査 ◎貧血検査(赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値)
保健指導対象者の選定と階層化の手順 STEP.1 内臓脂肪蓄積に着目してリスクを判定 (1)腹囲が、男性で85cm以上、女性で90cm以上ある (2)腹囲は上記未満だが、BMIが25以上ある STEP.2 検査結果、質問表から追加リスクをカウント ①血糖(いずれか1つ) ・空腹時血糖が100mg/dl以上 ・HbA1cの場合、5.2%以上 ・薬剤治療を受けている(※) ②脂質(いずれか1つ) ・中性脂肪が150mg/dl以上 ・HDL-Cが40mg/dl未満 ・薬剤治療を受けている場合(※) ③血圧(いずれか1つ) ・収縮剤血圧130mmHg以上 ・拡張期血圧85mmHg以上 ・薬剤治療を受けている(※) ④喫煙(①~③のリスクが1つ以上ある場合のみカウント) ・喫煙歴あり ※質問表より STEP.3 健康指導のレベルをグループ分け STEP.4 例外となる場合 ◎前期高齢者(65~74歳) 積極的支援の対象になった場合でも動機づけ支援とします。65歳までに特定保健指導がすでに行われていると判断できることと、年齢を考慮すると、生活習慣の改善にはQOL(生活の質)が低下しないようことに配慮すべきであると考えるためです。 ◎服薬中の人 保健指導は、かかりつけの医療機関で医学的な管理の一環として行われることが望ましいため、医療保険者による特定保健指導の対象としません。
おわりに メタリックシンドロームへの道は、私たちの前に敷かれたレールのようなもので、中年になっても若い時と同じ普通の生活をしているといつの間にか辿りついてしまいます。何もしないでも使うエネルギー量(基礎代謝)は都市をとるとともに低くなりますので、これにあわせて食べる量を減らし、敢えて運動量を増やさないとメタボリックシンドロームとして、心臓病や脳卒中になりやすく、危険な状態になります。 この病気は、徐々に進みますので、体がその変化に慣れてしまい自覚症状がないことが特徴で心臓病やになって初めて症状が出るのです。症状がないので放置して手遅れになる恐ろしい病気です。 関西医科大学医学部/臨床検査医学教授 付属滝井病院循環器内科 高橋伯夫